未払い賃金に関する相談は、弁護士への相談として比較的多いものです。
最近、着替え時間が給与の支払い対象である労働時間に含まれるかが話題になっていました。
着替え時間が労働時間に含まれるか、は比較的以前から問題となっている点であり、いわゆる教科書的な労働法の本にも言及のある論点です。
この問題に言及した判例としては、平成12年3月9日の、三菱重工長崎造船所事件が有名です。
この判例では、まさに、更衣の時間が労働時間に含まれるかが問題となっていました。
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。
この労働時間に該当するかは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるかにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないとされています。
そして、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるとされています。
この判例では、実作業に当たり、作業服及び保護具等の装着を義務付けられていること、その装着を事業所内の所定の更衣所等において行うものとされていたことが指摘され、更衣の時間も労働時間に該当するとされました。
最近は私服可の会社も多くありますが、制服等が定められ、着替えることが必須となっている会社もまだまだ少なくありません。
そのような会社では、制服等の指定を継続するのか、継続するとするならば、着替えの時間を労働時間に含めるべきか、等を検討する必要があります。
労働基準法の改正により、未払い給与の請求権の時効は、5年間に延長されています。
当面経過措置により、時効期間は3年とされていますが、仮に5年分の着替え時間について未払い賃金請求がされると、その額はかなりの額になることが予想されます。
それが、全従業員について生じるとなると、会社の経営に与える影響も少なくありませんので、この件は、かなり慎重に考える必要があると思います。