あまりなじみのない論点ですが、相続回復請求権と取得時効の関係で最高裁判所で判決が出されました。
この件は、それほど問題になるケースは多くないと思われますが、最高裁判所の判例ですので、相続を担当する弁護士としては知っておいてよいものかなと思います。
この件は、ざっくりいえば、不動産を所有していた被相続人が、相続人である養子と、相続人ではない甥に平等に遺産を分与する内容の遺言を残していたところ、相続人である養子が遺言の存在に気付かず、その不動産を自分が単独で相続したものと考えて、所有の意思をもって10年以上占有したというものです。
主な論点は、相続回復請求権の消滅時効が完成する前に、遺産であった不動産の共有持分権を時効取得できるか、です。
最高裁判所は、昭和53年12月20日の最高裁大法廷判決を参照しつつ、民法884条が消滅時効を定めた趣旨について、「相続権の帰属及びこれに伴う法律関係を早期かつ終局的に確定させることにある」としました。
そのうえで、取得時効の要件を満たしたにもかかわらず相続回復請求権の消滅時効が完成していないことを理由に時効取得ができないとするのはこの趣旨に整合しないとし、「上記表見相続人は、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、当該真正相続人が相続した財産の所有権を時効により取得することができるものと解するのが相当」としています。
法的安定性を重視するのであれば、最高裁の結論は肯定できるように思いますが、被相続人の意思には明らかに反してしまっているという問題があるように思います。
遺言書を作成する理由は人それぞれですが、中には遺産の配分について自分の希望を入れたいという方や、家族、親族間での争いごとをなくしたいという方もいます。
今回の件は、そのいずれも実現できておらず、被相続人としては残念な気持ちでいるかもしれません。
遺言を作成する際に、遺言の内容だけでなく、その保管方法、自分が亡くなった後の対応方法なども考慮しておくべきだと思います。
公正証書遺言や自筆証書遺言保管制度もありますし、弁護士などの信頼できる第三者に預けておく方法もあると思います。
遺言書作成を考えている方は、いろいろ調べてみたり、相談してみたりするとよいと思います。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=92826