令和2年7月9日に,交通事故の逸失利益の賠償について,定期金賠償を認める判
決が最高裁第一小法廷で出されました。
この事件は,交通事故により高次脳機能障害を負った被害者の方が,加害者に対し
損害賠償請求をした事件です。
後遺障害を負った被害者の方が損害賠償請求をする場合に,将来の収入喪失・減少
に対する賠償として,逸失利益の賠償請求をすることが多くあります。
逸失利益について,一括での賠償ではなく,定期金の賠償を求めた点にこの件の特
徴があります。
判決では,被害者が,「逸失利益について定期金による賠償を求めている場合におい
て」,不法行為に基づく損害賠償制度の「目的及び理念に照らして相当と認められる
ときは,同逸失利益は,定期金による賠償の対象となるものと解される」としていま
す。
さらに,「交通事故の時点で,被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し,近
い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り,就労可
能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しな
いと解するのが相当」としています。
そのうえで結論として定期金賠償を認めています。
一括賠償による場合,中間利息控除がされる結果,賠償額がかなり減額されるという
問題があります。
中間利息の利率については,民法の改正により一部是正が図られているといえますが,
それでもなお,被害者側から見て補償が十分とはいえないのではないかと感じられる
ところもあります。
定期金賠償がどのような後遺障害に認められるか,裁判所がいう,不法行為に基づく
損害賠償制度の「目的及び理念に照らして相当と認められるとき」でない場合はどの
ような場合なのか,「特段の事情」が認められるのはどのような場合なのか,等,ま
だ不明確な点は残っています。
全ての後遺障害に認められてもよいように感じられる反面,14級9号の場合等,比
較的労働能力喪失期間が短期間に限られることがあるものなど,相当と認められるか
について評価が分かれそうな気がするものもあります。
今後,これらの点について最高裁判所がどのような判断をするのか,気になります。